上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
- --/--/--(--) --:--:--|
- スポンサー広告
-
-
その日僕はリビングにあるソファに寝ころび、ある学術的実験に勤しんでいた。
「羊が1264匹」
完璧に覚醒した状態で、羊は何匹まで数えられるのかという実験。
「羊が1265匹」
眠れない夜に、羊を数えるのはよく聞く話だが(最近はあまり聞かないけど)眠らないように数えると、どこまでの羊を見られるのか疑問に思ったのだ。
「羊が1266匹」
昔、天才バカボンの漫画で、羊を数えようとして想像するのだが、羊の姿がわからないと言う話しがあった。とてもユニークだと思った。
「羊が1267匹」
しかし僕は羊の姿を知っている。完璧では無いけど、その姿、特に目を覚えている。数年前ドイツでの恐怖体験だった。マイナスドライバーのような目が、大挙して襲ってくる。
「羊が1268匹」
いや、こんな余計な事を考えるべきではないのだ。集中して羊を数え続けなければ、羊は柵を跳び越えなくなるかもしれない。僕は忠実な牧羊犬のように、羊を監視し続けなければならないのだ。
「羊が1269匹」
「何やってんの?」
気が付くとソファの横に彼が立っていた。いつ来たんだろう?
「羊を追ってる。1270匹目」
僕は98%を羊に集中して答えた。2%の返事でも彼は納得したようだった。
「あのさ、前から気になってた事があるんだけどさ」
「何?1271匹」
「『味わう』って言葉あるじゃない?」
「あるね。1272匹」
「『よく味わって食べよう』とかのアレ」
「うん1273匹」
「こういうとき、なんて言う?『おまえにも味○○せてやる!』」
「は?」
返事が70%になった。羊は30%の曖昧さで柵を跳び越えている。1274匹目だった。
「味わわせる?味あわせる?」
なんだろう、昔70年代的ドメスティック映画で、黒レザーに身を包んだハスッパな敵役女が、「アタイの苦しさを、おまえにも味○○せてやる!」って言ってた気がする。なんて言ってたんだろう。
「言葉の意味を考えると、味わわせるなんだけど、音で聞くと味あわせるなんだよね。」
「ちょっと待って」
僕はパソコンを起動し、ワープロソフトで変換してみた。
「味わわせる・・・ちゃんと変換するね。味会わせる・・・会わせる?意味が違ってくるね」
「そう。でも口に出して味わわせるって言うと、違う気がしない?」
「そうだねぇ・・・」
彼は首をひねりながら、部屋を出ていった。彼の疑問は解決しないままだった。僕はまた羊を数える作業に戻った。
「羊が・・・何匹?」
羊は違う柵を跳び越えていた。僕の疑問も解決しないままだった。あきらめて1から数え直す。
「羊が1匹、羊が2匹、羊が・・・」
何匹か柵を越えた時
「あ、今の羊、星形の模様がある」
灰色の猿が、ハンマーで僕の後頭部を殴った。次は足し算をしなければならないかもしれない。
- 2006/10/30(月) 22:32:00|
- 解決しない話
-
-
| コメント:5
「なんかさぁ、こう何気なくテレビとか見てるじゃない?」
テレビドラマがCMに入った時、突然彼はこう切り出した。不意を突かれた僕は、状況を思い浮かべようと努力してみた。
「うん、見てると?」
「コマーシャルでその終わりぐらいに、『検索・クリック音』みたいなのが出るヤツ、多くない?」
「うん、多いね」
確かにそうだ。いつからだろう、やたらとそんなCMを見るようになった。
「あれさぁ、押しつけがましく感じない?」
「なんで?」
「なんとなく、なんて言うか、・・・なんて言おう」
彼はしばらく考え、そしてこう言った。
「陰謀っぽいって言うか・・・」
「陰謀?誰の?」
いつも彼の話は突飛だった。押しつけがましい陰謀?
「そう。なんか不景気がそうさせてるって言うか・・・」
「不景気が押しつけがましい陰謀を策略してるって事?風が吹けば桶屋が儲かるみたいな?」
わからなすぎる・・・
「もっと単純にさ、不景気じゃない?今。でね、どこかの政府が景気回復考えてさ、メディア使って商品を買わせようとするの。それでコマーシャルに、検索してもっと商品を知って、購入しましょう。そしてお金を回しましょうってな事を言わせるの。」
「そんなので回復すんの?」
「きっとサイトにアクセスすると、何かいいことがあるんだよ。代理店とかに。」
いいことって何だろう・・・
「いつだったか、地デジが見られるパソコンのCMで、キグルミのヒトが誰かってクイズがあってさ、それに例の検索が出たんだよね。あと、コンビニCMで、透明のお笑いコンビが誰かって検索もあった。」
「ああ、あったね。僕も検索した」
「ほらね。そうすれば検索数伸びるじゃない。」
「そうだね」
「ただ検索数伸びてもなかなか儲けに繋がらない。そこでアクセスすれば何かいいことが起こるようにするの。作った側にね。」
・・・そうなのかな・・・
「なんでそう思ったかって言うと、あの『検索・クリック音』がついてるCM、きっと1社の広告代理店が全部作ってんだよ」
「え?そうなの?」
「だってさ、確実にパクって2番3番煎じじゃない?あれを別の人たちが考えてるとすると、かなりマヌケでオリジナリティとか無いじゃない。まさかそんなことする訳ないじゃない、広告のプロが。」
「たしかにマヌケな話しだね」
「だから1社で作ってるんじゃないかって思ったワケよ。きっと作ってんのは・・・」
僕は身を乗り出して聞いた。
「誰?」
「***********」
「マジで?」
長い沈黙が訪れた。僕は薄ら寒い気分だった。無意味に思えたテレビの雑音が、急に生々しい物に感じられた。
ドラマは終わり、またCMが流れ始めた。きっと来年の今頃は、全部のCMに『検索・クリック音』がついてる気がしてきた。入歯接着剤とか痔の薬とか、アヒルの生命保険とか時をかけるカフェオレとか・・・。
「今の話しとは違うけどさ、これも変だよね」
テレビではジャングルジムの下敷きになった外国人が映っている。突然ジャングルジムに襲われて、助けを求めるのだが英語で女性には理解できないと言う、英会話学校のCMだった。
「最初英語がわからなくて、公園から出て英会話学校に入って行くじゃない?で、戻って『Can I help you?』って言う。」
「今言ったね」
「ほら、この外国人すごく髪伸びてるじゃない。ものすごい年月経ってるって事でしょ?たかが『Can I help you?』覚えるのに。」
「ま、そうだね」
「この女性の物覚えが恐ろしく悪いのか、この英会話スクールが無能なのかって話しよ。」
「うーん」
「すごくマイナスイメージだと思うんだけど。どういう意図があるのか知りたいな。あとあれね、『In the bus 999~』とか歌ってて、『No! In the bath! bath!』って訂正されるやつ。バスに乗って歌ってるのに、風呂って訂正されるってどうよ。」
「前のが風呂でやってたから、そのまま使ったんじゃないの?歌」
「マヌケだね。あ、もういっこ思い出した。最近見ないけど、ハコ型の頭と、コンセントのしっぽがついたサルのCMあったじゃない?」
「あったね」
「あれ、何がおもしろかったの?」
何を言ってたんだっけ?
「銅像が出てきてさ、サルが言うの。『銅像、よろしく。銅像、よろしく。なんちゃって』って、2回も言うの。」
ああ、言ってた気がする。
「ドギモ抜かれたね。すごすぎて。」
「なかなか無いセンスだからじゃないの?おもしろいって思うヒトが、きっといるんだよ。」
「マヌケだね。きっとそんなマヌケなCM作ってんのも、1社かもね。」
「また陰謀?」
「そう、今の僕らみたいに、『納得できない=気になる』って戦略でさ、またサイトにアクセスさせて・・・」
「そう考えるとセコいね」
「うん、安っぽい。怖い世の中になったねぇ。」
「それもさっきの・・・」
「うん。***********だよ、きっと」
僕はその夜夢を見た。有名な漫画家と有名なシンガーが、球団を存続するかどうかでもめていた。ハコのサルはダジャレばっかり言っている。変なしゃべり方の女が「ウサギ男だったのね、タクちゃん」と言い、またアレが現れた。『検索・クリック音』
僕はスイッチを切った。
- 2006/10/27(金) 11:48:00|
- 解決しない話
-
-
| コメント:3